終活コラム

意思能力とは?判定基準・失われた場合の影響と元気なうちの備え

意思能力の意味、判定基準、意思能力が失われると何ができなくなるのかを解説。認知症や高齢に備えて、判断力があるうちにやっておくべき法的手続きをまとめました。

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「親が認知症と診断されたけれど、まだ遺言書は書けるの?」「意思能力って具体的にどのレベルのことを言うの?」——終活や相続の場面で、「意思能力」という言葉に直面することは少なくありません。

意思能力とは、自分の行為の法的な結果を理解し、判断できる精神的な能力のことです。民法第3条の2では、意思能力を持たない者がした法律行為は無効とされています。つまり、この能力が失われると、契約を結ぶことも、遺言を書くことも、法的には無効になってしまう可能性があるのです。

この記事では、意思能力の判定基準や、能力が失われた場合に何ができなくなるのか、そして判断力があるうちにやっておくべき備えについて解説します。

家族と一緒に書類を確認するシニア男性

意思能力とは——法律上の定義と基本

意思能力とは、法律行為の意味や結果を理解し、自分の意思に基づいて判断を下す能力のことです。日本の民法では2020年4月施行の改正により、第3条の2として「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と明文化されました。

意思能力と行為能力の違い

法律上、「能力」に関する似た用語が存在するため、混同しやすいポイントを整理しておきましょう。

用語意味判断主体
意思能力行為の結果を理解・判断する精神的能力最終的に裁判所が判断
行為能力単独で有効な法律行為ができる資格制度的に制限(未成年、被後見人など)
事理弁識能力成年後見制度で使われる「判断能力」の法律用語家庭裁判所が鑑定に基づき判断

意思能力は「個々の行為の時点で、その内容を理解できたかどうか」が問われます。一方、行為能力は年齢や後見開始の審判という制度的な基準で判断されます。

意思能力が求められる場面

意思能力が問題になる典型的な場面としては、以下のようなものがあります。

  • 契約の締結:不動産売買、賃貸契約、保険の加入・解約
  • 遺言書の作成自筆証書遺言公正証書遺言ともに意思能力が必要
  • 贈与:生前贈与を行う場合
  • 委任契約任意後見契約や財産管理委任契約
  • 金融取引:預貯金の引き出し、株式の売買

意思能力の判定基準——何をもって「ある」「ない」と判断されるのか

意思能力の有無は、明確な数値で線引きできるものではありません。最終的には裁判所が個別の事情を総合的に考慮して判断しますが、実務ではいくつかの目安が用いられています。

医学的な検査と判断材料

意思能力の判定で参考にされる主な検査には以下のようなものがあります。

検査名概要点数目安
長谷川式認知症スケール(HDS-R)見当識・記銘力・計算力などを評価(30点満点)20点以下で認知症の疑い
MMSE(ミニメンタルステート検査)国際的に広く使われる認知機能検査(30点満点)23点以下で認知機能低下の疑い
医師の診断書認知症の進行度・日常生活の自立度を記載

ただし、これらの検査結果はあくまで参考資料であり、「何点以下なら意思能力なし」という画一的な基準はありません。裁判では、検査結果に加えて本人の言動、日常生活の様子、行為の複雑さなどを総合的に判断します。

医師が高齢者の認知機能テストを実施している様子

行為の難易度によって求められるレベルが異なる

意思能力の重要なポイントとして、行為の種類によって求められる理解力のレベルが変わるということがあります。

  • 日用品の購入:必要とされる意思能力のレベルは比較的低い
  • 遺言書の作成:遺言内容を理解し、その結果(誰に何を渡すか)を認識できる程度
  • 不動産売買:対価の妥当性、権利関係、取引結果を理解できる程度
  • 複雑な金融商品の契約:リスクやリターンの仕組みを理解できる高い判断力が必要

たとえば、認知症の初期段階で「長男にこの家を相続させたい」という単純な遺言であれば意思能力が認められるケースでも、複数の不動産を異なる条件で分配するような複雑な遺言では能力が否定される場合があります。

裁判で意思能力が争われた場合

遺言や贈与について、「当時、本人に意思能力はなかったのでは」と争われるケースは実際に少なくありません。裁判所が判断する際に考慮される要素は以下の通りです。

  • 行為時点の認知症の進行度(診断書・カルテ)
  • 行為の前後の本人の言動(日記、介護記録、看護記録など)
  • 行為の内容が本人の従来の意向と一致するか
  • 行為の複雑さ・重大さ
  • 公証人や立会人の所見(公正証書の場合)

意思能力が失われるとできなくなること

判断力が低下し、意思能力が認められなくなると、法律上さまざまな行為が無効になったり、実質的にできなくなったりします。

法律行為への影響

行為意思能力なしの場合
遺言書の作成無効になる可能性が高い
不動産の売買契約が無効
生前贈与無効になりうる
任意後見契約の締結契約できない
保険の解約・変更手続き不可
銀行口座の取引金融機関が取引を制限

金融機関の対応

銀行や証券会社は、名義人本人の意思確認ができない場合、預金の引き出しや口座の解約を断ることがあります。これは顧客保護の観点から行われるもので、窓口で本人の受け答えに違和感がある場合などに取引が保留されるケースが報告されています。

口座が実質的に凍結されると、本人の介護費用や医療費の支払いにも支障が出ます。認知症になった場合の備えで詳しく解説していますが、判断力があるうちに代替手段を用意しておくことが非常に重要です。

遺言書が無効になるリスク

意思能力に関して最もトラブルになりやすいのが、遺言書の有効性をめぐる争いです。認知症が進行した後に書かれた遺言書は、相続人の間で「本当に本人の意思だったのか」と争いの種になります。

遺言書が無効と判断された場合、法定相続分に従った遺産分割が行われることになります。本人が望んでいた財産の分配とは異なる結果になる可能性があるため、遺言書の書き方を参考に、できるだけ早い段階で作成しておくことが望まれます。

「認知症=意思能力なし」ではない

ここで重要な点を改めて強調しておきます。認知症の診断を受けたからといって、直ちに意思能力がなくなるわけではありません。

認知症は進行性の疾患であり、初期・中期・後期で判断力のレベルは大きく異なります。

段階日常生活法律行為への影響
軽度(初期)おおむね自立、もの忘れが増える単純な契約や遺言は有効とされやすい
中等度(中期)一部介助が必要、見当識障害が出る複雑な行為は無効と判断されやすい
重度(後期)常時介護が必要、意思疎通が困難ほとんどの法律行為が無効とされる

初期の段階であれば、医師の診断書や公証人の立ち合いのもとで遺言書を作成することも可能な場合があります。ただし、後から争われるリスクを最小限にするためにも、元気なうちに対策を済ませておくのが安心です。

元気なうちにやっておくべき備え

意思能力の問題に対する最善の対策は、「判断力が十分にあるうちに必要な法的手続きを済ませておく」ことに尽きます。

遺言書を早めに作成する

遺言書は判断力がある時に作成しておけば、その後認知症が進行しても内容は有効です。特に公正証書遺言であれば、公証人が本人の意思能力を確認した上で作成するため、後から無効と争われるリスクが低くなります。

任意後見契約を結ぶ

任意後見制度は、将来判断力が低下した場合に備えて、信頼できる人に財産管理を委任しておく制度です。意思能力があるうちにしか契約できないため、「まだ大丈夫」と思えるうちに準備を始めることが大切です。

家族信託を検討する

家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理・運用を任せる仕組みです。任意後見制度との大きな違いは、契約した時点から管理権限を移転できること。認知症が進行しても、受託者(財産を管理する家族)が柔軟に財産を活用できます。

エンディングノートに意思を記録する

法的拘束力はありませんが、自分の希望や意思をエンディングノートに記録しておくことも有効です。将来、意思能力の有無が問題になった際に「本人はこのような意向を持っていた」という参考資料になる場合があります。

意思を記録する際のポイント:

  • 日付を必ず記載する
  • できるだけ具体的に書く(「財産は長男に」ではなく「〇〇の土地は長男に、預貯金は均等に」)
  • 定期的に見直し、更新する
  • 本人の署名を入れておく

そなえで判断力があるうちに情報を整理しよう

「そなえ」は、スマホひとつで終活に必要な情報を記録・整理できるサービスです。

  • 財産情報、保険、口座などの一覧を安全に記録できる
  • もしもの時に家族が必要な情報にアクセスできる
  • 意思や希望を書き残し、いつでも更新できる

意思能力がある「今」だからこそ、自分の意思や資産情報を整理しておく価値があります。紙のノートと違い、変更があった時にすぐ更新できるのもデジタルの利点です。判断力が十分にあるこのタイミングで、自分の情報を整理しておきましょう。

まとめ

意思能力とは、法律行為の結果を理解し判断する精神的な能力であり、これが失われると契約や遺言が無効になる可能性があります。認知症の診断=意思能力の喪失ではありませんが、進行すれば重要な手続きができなくなるリスクは確実に高まります。

遺言書の作成、任意後見契約、家族信託の設定など、法的に有効な備えは判断力があるうちにしかできません。「まだ早い」と感じる今こそが、実は最適なタイミングです。家族と一緒に、早めの準備を始めてみてください。

意思能力とは?判定基準・失われた場合の影響と元気なうちの備え