「海外に住んでいるけど、終活って何から手をつければいいの?」——海外在住の日本人にとって、終活は国内に住む方以上に複雑な問題をはらんでいます。
海外在住者の終活とは、日本国外に居住する日本人が、老後や死後に備えて行う準備のことです。日本国内とは異なり、相続に関する法律が複数の国にまたがる可能性があり、届出先も在外公館を含めた複数の窓口に分かれます。さらに、銀行口座やデジタル資産が日本と居住国の両方に存在するケースも珍しくありません。
この記事では、海外在住の日本人が押さえておくべき終活のポイントを、相続・届出・遺言書・デジタル整理の観点から具体的に解説します。
海外在住者の終活が複雑になる理由
国内で暮らす方の終活と比べて、海外在住者の終活には以下のような特有の課題があります。
| 課題 | 国内在住者 | 海外在住者 |
|---|---|---|
| 適用される法律 | 日本法のみ | 日本法+居住国の法律 |
| 届出先 | 市区町村役場 | 在外公館+現地当局 |
| 資産の所在 | 日本国内が中心 | 日本+居住国(+第三国) |
| 遺言書の方式 | 日本法に準拠 | 複数の方式から選択可能 |
| 相続税 | 日本の税法 | 日本+居住国の二重課税リスク |
| 言語の壁 | なし | 公的書類の翻訳が必要 |
こうした複雑さから「面倒だから後回しに」と考えがちですが、準備を先延ばしにするほど残された家族の負担は大きくなります。特に、日本に住む家族が現地の手続きをすべて担うことになった場合、言語・時差・法制度の違いが大きなハードルとなるでしょう。
在留届の確認が第一歩
海外在住者の終活で最初に確認すべきなのが、在外公館への在留届の提出状況です。在留届は、外国に3か月以上滞在する日本人に届出が義務づけられています(旅券法第16条)。
在留届が提出されていないと、現地で万が一のことが起きた際に在外公館から日本の家族へ連絡が届かない可能性があります。まだ届出をしていない方は、ORRnet(外務省オンライン在留届)から手続きできます。
転居した場合の変更届や、帰国時の帰国届の提出も忘れないようにしましょう。
海外在住者の相続——どの国の法律が適用されるか
日本国籍者は原則として日本法
日本の「法の適用に関する通則法」第36条では、相続は被相続人の本国法によると定められています。日本国籍を持つ方が海外で亡くなった場合、原則として日本の民法に基づいて相続が行われます。
ただし、注意すべき例外があります。
- 不動産: 居住国によっては、不動産の相続にその国の法律が適用される場合がある
- 反致: 居住国の法律が「相続は常居所地法による」と定めている場合、さらに複雑になる
- 二重国籍: 日本国籍以外も持っている場合、適用法が変わる可能性がある
たとえば、アメリカやイギリスでは不動産の相続は所在地法が適用されるのが一般的です。日本と居住国で異なる法律が適用される可能性がある方は、国際相続に詳しい専門家への相談をおすすめします。
法定相続人と相続分
日本法が適用される場合、法定相続人や相続分は日本の民法に従います。配偶者は常に相続人となり、子ども、親、兄弟姉妹の順で相続権が発生します。詳しい仕組みは法定相続の基本で解説しています。
海外在住者ならではの注意点として、配偶者が外国籍の場合があります。外国籍の配偶者も日本法上の法定相続人になりますが、日本の戸籍には記載されないため、相続手続きの際に婚姻関係を証明する書類(婚姻証明書やアポスティーユ付き公的書類など)が必要になることがあります。
海外在住者が亡くなった場合の届出
在外公館への死亡届
海外で日本人が亡くなった場合、在外公館(日本大使館・総領事館)に死亡届を提出する必要があります。届出期限は死亡の事実を知った日から3か月以内です(国内の届出は7日以内なので、期限が異なります)。
届出に必要な主な書類は以下のとおりです。
- 死亡届(在外公館の窓口または外務省サイトからダウンロード可)
- 現地の死亡証明書(原本+日本語翻訳)
- 届出人の身分証明書(パスポートなど)
- 被相続人のパスポート
届出が受理されると、日本の本籍地の戸籍に死亡が記載されます。この戸籍謄本が日本での相続手続き全般に必要となるため、早めの届出が重要です。
現地当局への届出
在外公館への届出と並行して、居住国の法律に基づく届出も必要です。死亡診断書の取得、葬儀の手配、現地の銀行口座の凍結手続きなど、国によって必要な対応は異なります。
遺体を日本に搬送して葬儀を行う場合は、エンバーミング(防腐処理)の費用や航空輸送費が発生します。費用は地域によって異なりますが、数十万円から100万円以上かかるケースもあると言われています。現地での火葬・葬儀という選択肢も含めて、事前に方針を決めておくと家族の負担を軽減できるでしょう。
葬儀の形式については家族葬の流れも参考になります。
遺言書——海外在住者はどの方式を選ぶべきか
複数の方式が認められている
「遺言の方式の準拠法に関する法律」により、海外在住の日本人の遺言書は以下のいずれかの方式に適合していれば有効とされます。
| 方式 | 具体例 | メリット |
|---|---|---|
| 行為地法 | 居住国の法律に基づく遺言 | 現地の弁護士に依頼しやすい |
| 本国法 | 日本法に基づく自筆証書遺言・公正証書遺言 | 日本での相続手続きがスムーズ |
| 常居所地法 | 常に居住している場所の法律 | 行為地法と同じ場合が多い |
つまり、日本法でも居住国の法律でも、いずれかに適合していれば遺言は有効です。
おすすめは「日本の公正証書遺言」
海外在住者にとって最も安全性が高いのは、日本の公正証書遺言です。その理由は以下のとおりです。
- 在外公館の領事が公証人の職務を行えるため、日本に帰国しなくても作成可能
- 公証人(領事)が内容を確認するため無効リスクが低い
- 日本語で作成でき、日本の相続手続きでそのまま使える
- 原本が保管されるため紛失のリスクがない
在外公館での公正証書遺言の作成を希望する場合は、事前に管轄の大使館・領事館に予約を取りましょう。証人2名が必要となるため、現地在住の日本人に依頼するか、在外公館に相談してみてください。
遺言書の書き方の基本は遺言書の書き方ガイドで解説していますので、あわせてご確認ください。
居住国の遺言書も検討する場合
居住国に不動産を所有している場合は、その国の方式でも遺言書を作成しておくと手続きがスムーズになることがあります。特に、プロベート(裁判所による遺産検認手続き)が必要な国(アメリカ、イギリス、オーストラリアなど)では、現地の遺言書があると手続きが大幅に簡略化される場合があります。
日本の遺言書と居住国の遺言書を別々に作成する場合は、一方が他方を無効にしないよう注意してください。「日本国内の財産については日本法に基づく遺言書で」「居住国の財産については現地法に基づく遺言書で」と、対象財産を明確に分けて記載することが重要です。
海外在住者の資産管理と相続税
日本と居住国の資産を把握する
海外在住者は、日本と居住国の両方に資産が分散しているケースが一般的です。まずは以下のような資産を一覧にまとめましょう。
日本の資産:
- 銀行口座(休眠口座になっていないか確認)
- 証券口座(ネット証券含む)
- 不動産
- 保険(生命保険・年金保険)
- 年金受給権
居住国の資産:
- 現地銀行口座
- 退職年金(401kなど)
- 不動産
- 投資口座
- 現地の保険
財産目録の作成方法を参考に、両国の資産を漏れなくリストアップしておくと、いざという時に家族が困りません。
日本の相続税と二重課税
日本の相続税は、被相続人または相続人の居住地に応じて課税範囲が変わります。
| パターン | 課税対象 |
|---|---|
| 被相続人が日本に住所あり | 国内外すべての財産 |
| 被相続人が海外・相続人が日本に住所あり | 国内外すべての財産 |
| 被相続人・相続人とも海外(10年超) | 日本国内の財産のみ |
被相続人と相続人のいずれかが日本国内に住所を有する場合は、海外の財産も含めて日本の相続税が課税される点に注意が必要です。
また、居住国でも相続税や遺産税が課される場合、二重課税が発生する可能性があります。日本には外国税額控除制度があり、居住国で支払った相続税を日本の相続税から一定額控除できますが、控除しきれないケースもあります。国際相続に詳しい税理士への相談を検討しましょう。
デジタル資産の整理——国をまたぐ情報管理
海外在住者は、日本語のサービスと現地のサービスの両方にデジタル資産を持っていることが多く、デジタル終活の重要性が特に高くなります。
整理しておきたいデジタル資産は以下のとおりです。
- 日本のサービス: ネット銀行、ネット証券、電子マネー、サブスクリプション
- 居住国のサービス: 現地銀行のオンラインバンキング、PayPal、現地の決済サービス
- グローバルサービス: Google、Apple、Amazon、SNS各種
- 暗号資産: 取引所やウォレットの情報
日本のネット銀行やネット証券の中には、海外居住者の口座維持を認めていないところもあります。未対応の口座を放置すると休眠口座になる可能性があるため、出国前に対応状況を確認し、必要に応じて解約や移管を行っておきましょう。
パスワードの管理には、1PasswordやBitwardenなどのパスワード管理ツールを活用し、マスターパスワードの保管場所だけを信頼できる家族に伝えておくのが効果的です。パスワード管理と終活も参考にしてみてください。
海外在住者の終活チェックリスト
ここまでの内容を踏まえ、海外在住者が取り組むべき終活項目をまとめました。
| 優先度 | やること | 備考 |
|---|---|---|
| 最優先 | 在留届の提出・更新確認 | ORRnetで手続き可 |
| 最優先 | 遺言書の作成(公正証書遺言推奨) | 在外公館で作成可能 |
| 最優先 | 日本の緊急連絡先リストの作成 | 家族・親族・大使館の連絡先 |
| 高 | 日本+居住国の資産一覧を作成 | 休眠口座の確認も |
| 高 | エンディングノートの作成 | 日本語で記載、保管場所を共有 |
| 高 | 遺体の搬送方針を家族と共有 | 現地葬儀or日本搬送 |
| 中 | 居住国の遺言書を検討 | 現地に不動産がある場合 |
| 中 | デジタル資産の整理 | 両国のサービスをリスト化 |
| 中 | 国際相続に強い専門家を探す | 税理士・弁護士 |
| 中 | 保険の確認・見直し | 海外旅行保険・現地の医療保険 |
一度にすべてを終わらせる必要はありません。まずは在留届の確認と遺言書の作成から始めて、帰国のタイミングなどを活用しながら少しずつ進めていきましょう。
そなえで海外からの終活をもっと手軽に
海外在住者の終活では、距離を超えて家族と情報を共有できる仕組みが欠かせません。紙のエンディングノートは日本の実家に保管しても、いざという時に現地で確認できないという課題があります。
そなえは、インターネット環境があればどこからでもアクセスできるデジタルの終活サービスです。
- エンディングノートをスマホやPCで作成し、海外からでも随時更新可能
- もしもの時に、日本にいる家族に必要な情報が届く
- 日時指定のビデオメッセージで、離れて暮らす家族に大切な想いを届けられる
- パスワードや口座情報を安全に管理できる
海外と日本の距離があるからこそ、デジタルで情報を一元管理しておく安心感は大きいものです。
まとめ
- 海外在住者の終活は、国をまたぐ法律・届出・資産管理の複雑さが最大の特徴
- 在留届の確認と遺言書の作成が最優先の取り組み
- 日本の公正証書遺言は在外公館でも作成でき、最も安全性が高い
- 相続税の二重課税リスクがあるため、国際相続に詳しい専門家への相談も検討を