「親が亡くなったのに、銀行口座が凍結されて葬儀費用を引き出せない」——このような状況に直面する遺族は少なくありません。
葬儀費用の支払いは、多くの場合、葬儀後1〜2週間以内に求められます。しかし、故人の口座は金融機関が死亡を知った時点で凍結され、通常の引き出しができなくなります。
葬儀費用の払い方で慌てないためには、利用できる制度や支払い手段を事前に知っておくことが大切です。この記事では、口座凍結後でも使える方法を具体的に解説し、生前にできる備えもお伝えします。
なぜ故人の口座が凍結されるのか
銀行口座の凍結とは、口座名義人の死亡を金融機関が把握した時点で、入出金を停止する措置のことです。
凍結は遺産を保全し、相続人全員の権利を守るために行われます。一人の相続人が独断で引き出して使ってしまうことを防ぐ仕組みです。
凍結のタイミング
口座が凍結されるのは、以下のいずれかによって銀行が死亡を知った時点です。
- 遺族が銀行に電話や窓口で連絡した
- 新聞のお悔やみ欄で銀行が把握した
- 年金振込停止の通知が届いた
死亡届を市区町村に提出しただけでは自動的には凍結されませんが、遺族が金融機関に連絡する義務があります。連絡前に引き出す行為は後のトラブルにつながるため、適切な手順を踏みましょう。
凍結後に口座の資金を受け取るには、原則として遺産分割協議を完了させる必要がありますが、それには数週間〜数か月かかることも珍しくありません。
口座凍結後に使える「仮払い制度」
2019年の民法改正(法務省「相続法の改正について」)により、遺産分割前でも相続人が単独で一定額を引き出せる**仮払い制度(預貯金の払戻し制度)**が設けられました。
仮払い制度の仕組み
仮払い制度とは、相続人が葬儀費用や生活費など緊急の支出に対応するために、遺産分割の合意前に預貯金を引き出せる制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 法定相続人(単独で手続き可能) |
| 引き出し上限 | 口座残高 × 1/3 × 法定相続分 |
| 1金融機関あたり上限 | 150万円 |
| 必要書類 | 被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本・本人確認書類 |
| 他の相続人の同意 | 不要 |
計算例
たとえば、故人の預金残高が900万円、相続人が配偶者(法定相続分1/2)の場合:
- 900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円
この場合、上限の150万円まで引き出すことが可能です。葬儀費用の一般的な相場を考えると、多くのケースで直接的な費用はカバーできるでしょう。
仮払い制度の注意点
- 引き出した金額は、後の遺産分割で精算される(取得分から差し引かれる)
- 金融機関によって必要書類が異なる場合がある
- 手続きに数日かかることもあるため、葬儀直後にすぐ引き出せるわけではない
葬儀費用の支払い期限が迫っている場合は、葬儀社に事情を説明し、支払時期の相談をしておくと安心です。
仮払い制度以外の支払い方法
仮払い制度だけでは足りない場合や、手続きに時間がかかる場合に備えて、他の支払い手段も把握しておきましょう。
喪主本人の預貯金で立て替え
最も一般的な方法は、喪主や家族が自身の預貯金から立て替えることです。後日、相続財産から精算するか、他の相続人と費用を分担します。
立て替えた金額を後で精算するためには、領収書をすべて保管しておくことが大切です。
クレジットカード払い
大手の葬儀社を中心に、クレジットカードでの支払いに対応しているケースが増えています。カード払いのメリットは以下の通りです。
- 支払いを翌月以降に先延ばしできる
- ポイント還元が受けられる場合がある
- 分割払いに対応している場合がある
ただし、すべての葬儀社がカード払いに対応しているわけではないため、事前に確認が必要です。
葬儀ローン(分割払い)
葬儀社と提携した信販会社のローンを利用する方法もあります。
- 審査が比較的通りやすい
- 分割回数を選べる(3回〜36回程度)
- 金利がかかる点に注意
急な出費で手元資金が不足する場合の選択肢ですが、金利負担を含めた総支払額を事前に確認しましょう。
互助会の積立金
生前に互助会に加入していた場合、積立金を葬儀費用に充てることができます。互助会は全日本冠婚葬祭互助協会に加盟する事業者が運営しており、月々数千円の積み立てで葬儀費用を備える仕組みです。
ただし、積立金で葬儀費用の全額がまかなえるとは限りません。互助会の基本プランに含まれる内容を確認し、追加費用が発生する場合があることも理解しておきましょう。
葬儀費用の支払い方法比較
| 方法 | すぐ使える? | 注意点 |
|---|---|---|
| 仮払い制度 | △(書類準備に数日) | 上限150万円/遺産分割で精算 |
| 喪主の自己資金 | ◎ | 立て替え額の精算が必要 |
| クレジットカード | ◎ | 対応していない葬儀社もある |
| 葬儀ローン | △(審査あり) | 金利負担が発生 |
| 互助会 | ○(加入済みの場合) | 全額カバーできない場合も |
| 葬儀保険 | △(請求手続き後) | 受取りに時間がかかることも |
状況に応じて複数の方法を組み合わせるのも現実的です。
葬儀費用は相続税の控除対象になる
意外と知られていませんが、葬儀費用は相続税の計算において債務控除の対象になります。つまり、相続財産から差し引くことができ、相続税の負担を軽減できます。
控除対象になる費用
- 通夜・告別式の費用
- 葬儀会場の使用料
- 遺体の搬送費用
- 火葬・埋葬費用
- お布施・読経料
- 死亡診断書の文書料
控除対象にならない費用
- 香典返しの費用
- 墓地・墓石の購入費用
- 初七日以降の法要費用
- 遺体の解剖費用
相続税の申告時に控除を受けるために、葬儀にかかった費用の領収書やメモを必ず保管しておきましょう。領収書が出ないお布施などは、日付・金額・支払先をメモに残しておくことが重要です。
相続の準備チェックリストでも控除の基本を確認できます。
生前にできる葬儀費用の備え
故人の口座凍結で家族が困らないよう、生前のうちに費用面の備えをしておくことが何よりの対策です。
1. 葬儀用の資金を分けて確保する
葬儀費用として使う資金を、普段使いの口座とは別に確保しておきましょう。家族名義の口座に移しておく、あるいは家族が把握できるようメモを残しておく方法があります。
2. 互助会や葬儀保険に加入する
月々数千円の積み立てで、将来の葬儀費用を準備できます。保険タイプの場合、加入からすぐに保障が始まるものもあります。
3. 家族に情報を共有する
- どの口座にいくら入っているか
- 葬儀社の事前契約をしているか
- 互助会や保険の加入情報
- 希望する葬儀の規模と予算
これらの情報をエンディングノートに記録し、家族に伝えておくことが大切です。銀行口座の相続手続きもあわせて確認しておくと、凍結への対応がスムーズになります。
4. 葬儀社の事前見積もりを取得する
葬儀の事前準備として、複数の葬儀社から見積もりを取得しておくと、必要な費用が具体的にわかり、過不足なく準備できます。
そなえで葬儀費用の備えをもっと手軽に
「そなえ」では、葬儀に関する情報を項目ごとに整理して記録できます。
- 葬儀費用の準備状況や口座情報を記録
- 互助会・保険の加入情報を一元管理
- 希望する葬儀の形式や予算の共有
- もしもの時に、記録した情報が家族へ届く
家族が「どうやって払えばいいの?」と慌てる前に、費用の準備状況を共有しておくことが安心につながります。
まとめ
故人の口座が凍結されても、仮払い制度を使えば上限150万円まで引き出せる可能性があります。それだけでは足りない場合も、クレジットカード・葬儀ローン・互助会など複数の方法を組み合わせることで対応できます。
最も大切なのは、生前に費用の備えと情報共有を済ませておくことです。口座情報・保険情報・葬儀社の見積もりをエンディングノートにまとめ、家族に伝えておきましょう。
葬儀費用は相続税の債務控除にもなるため、領収書やメモの保管も忘れずに行ってください。